

ONE COIN CUP
役割
総合クリエイティブ
概要
ONE COIN CUP(以下、OCC)に使用されるイラスト、画面デザイン、映像演出を制作しました。
OCCは、Vtuber 夜月ラピスが主催する活動者限定VALORANTカスタム大会です。
年
2024
ジャンル
大会ビジュアル制作
制作期間
1/6~1/26
活動者が集う場所
誰でも気軽に参加し、交流できる大会を目指しつつ、実力の確かなeSportsキャスターによる公式さながらの実況解説を提供します。大会終了後もアーカイブを観て楽しめるように、個人主催として最高峰のクオリティを実現します。といったコンセプトを主軸にヒアリングを重ね、一度にすべてを作成せずに段階的に成長していく制作をとりました。
ヒアリングの際にジェットをメインビジュアルにしたい、そして大会のBGMはStream Paletteを使用したいと要望がありました。そこで綺麗で洗練された曲の多かったStream Paletteと主催のメインカラーでもある青を基調に合わせて、爽やかでクリアな印象の制作にする決めました。
メインビジュアルのイラストはカジリコが担当し、背景の制作はbakuが担当しました。
背景はジェットの風をモチーフにし、動きを感じられるイラストに負けないよう高速で移動してきたかのような印象を与えることを意識してデザインしました。

新生らしく、フレッシュに
実況背景はYSKRが担当しました。ヒアリングの結果青と白を基調とし、Live2DのVtuberである夜月ラピスに合う背景にするため、リアルな3D制作ではなく、After Effects (AE) のシェイプ機能で3D制作を行うことで質感等のマッチ感を高めることに決定しました。

各画像制作は開催の度にアイコンを入れ替える作業も兼ねてbakuが担当しました。OCCが長く無限に続いて欲しいという願いを込めて、エントリーナンバーを6桁にしました。

新体制の夜明け
個人主催の最高峰を目指した大規模大会「VALORANT Streamer Festival」(以下、VSF)を終え、大きな実績と経験を得たことで、OCCは次のステップへと進むことになりました。新たな大会では、毎月8チームが招待され、たった1枠のVSF挑戦権をOCCで競い合うという新体制が企画されました。これに伴い、新体制のOCCを告知する映像の制作が決定しました。
ヒアリングを行った結果、映像の配色などは以前の制作と調和する形にし、新体制OCCの内容が明確に伝わるように、参加意欲を高めること、VSFという夢の舞台への挑戦権を表現することが求められました。さらに、これまでの制作物と大きく異ならないような映像にするという要望もありました。
VSFでステップアップした夜月ラピスとOCCを表現するには、僕自身もVSFで得た経験と課題を新たなスキルで成長させる必要があると考え、VSFの映像を超えることを目標に掲げて制作に挑みました。
これからお見せするものは全てクライアントである夜月ラピスへ実際に提出した共有物になります。
VSFで得た課題
VSF映像制作で得た大きな課題は、事前の準備不足とCinema4Dを用いた制作においての圧倒的な経験値不足でした。そこでこの問題を解決するために僕はColosoにあったC4Dアーティスト カン・ウソン&キム・グリュン&パク・テフンが作成した「頂点に向かって挑戦するためのC4Dマスタークラス」を受講することにしました。ここでは驚くような発見がたくさんあり、C4D制作のスキルや基本的な制作方法を学びました。
まずは講座で学んだ事前準備段階のパイプラインとPREVIZ制作をなるべく忠実に再現することから始めました。
1.物語の作成
タイトル: DIGITAL DAWN (デジタル=たくさんの活動者 DAWN=夜明け SARAの感情が発現する様子を表したタイトル)
概要: 未来のサイバーな都市の夜。外出している一体のアンドロイドがいた。彼は量産型の普通のアンドロイドであり、感情を持たないはずだった。しかし、彼女は何故か心に空洞を感じていた。何かが変わるきっかけを探しながら、夜の街を遊泳していた。
喧噪をかき消すように、ビルのモニターに映し出される実況と歓声の音が聞こえてきた。そこに映っていたのは「VALORANT Streamer Festival」の生中継だった。その映像を見た瞬間、アンドロイドの存在しないはずの心が躍動するのを感じた。彼はこの大会に出場したいと思った。その時、通知音が鳴り響く。それは「ONECOINCUP」の招待メールだった。
2.この物語に至った経緯と作品を通して伝えたいこと
- 2024年現在は活動者の時代 -
現在VtuberやStreamerはとても人口が増えていて、量産型のようにありふれています。すでに色んな方法で成功している人たちもいるが、きっかけを生み出せずにいる人達が多い気がします。
一部の成功している活動者達の輝かしい現状に夢見て始めてみたが、ひどく扱われたりする時もあり、中の人間の心に傷を生む人も少なくない
そんな現状の中で埋もれている活動者を支援すること、共に成長できる環境の構築が、今回の新体制の目的の一つです。
インターネットの特性上、多くの人から無責任な言葉を投げかけられることは少なくありません。時には厳しい状況に直面し、それでも楽しさを届け続けなければならない活動者と、人間の生活を支援するだけに設計され、表面的には感情を持たないとされているアンドロイドの献身的な部分にシナジーを感じました。
そんな反面現実には、VtuberやStreamerと名乗りながらも配信をしていない人や、短期間で何度もアカウントを転生させるなど、形だけの活動者も少なくありません。作品の中で無感情のはずのアンドロイドがVSFという大会の生中継を見て心が躍動するのを感じたように、この作品をSNSの告知ポストで見た活動者と名乗る全ての方達が夢の舞台への第一歩を踏めるきっかけになってほしいです。
この内容で制作することを決め、次にリファレンス収集とストーリーボードの作成を行いました。

今回の制作を行うにあたって、三分割法などのレイアウトや各ショットの有効的な使用方法など、映像の基本的な基礎を一から学び直し全てのショットに意味を持たせることに挑戦しました。これもVSF制作で韓国の3Dクリエイターであるervenと制作した際に、自分の知識が足らず彼に大きな負担をかけてしまったことで気づいた課題でした。
脱出
もう一つの大きな課題は、3D制作をするうえで常にVALORANTのIPモデルを使用していたことです。Riotの暗黙の了解による恩恵に甘えている今の状態はいいことではないし、自分の成長を妨げる大きな要因の一つだと感じていました。そこで今回は講座に含まれていたオリジナルキャラクターの制作を行うことでIPからの脱出を決めました。IPを使用した制作自体は楽しいので、もう使用した制作はしないと決めたわけではありません。ただ使用しない選択肢を作る事で自分の引き出しを増やしたいと考えました。
キャラクター像
SARA-404 (Synthetic Autonomous Robotic Assistant)
404: エラーメッセージ「404 Not Found」に基づき、自己修復やトラブルシューティング機能を持つアンドロイドを示唆。この作品において、エラーとは感情の出現である
SARA-404(以下、SARA)は、戦闘や雑務作業など、人間の生活を補助するために設計されたアンドロイドです。無感情であるがゆえに、周囲からはしばしば乱暴に扱われることがあります。特徴的な大きなゴーグルを装備しています。


大舞台を目指して
今回のプロジェクトはVSFでMAを担当していたIchiと行いました。この制作が終了したときにbakuとichiがクリエイターとして成長できることを2人の政策目標にしました。
夜月ラピスからプロジェクトの話を聞いた時に、僕は副主催としてVSFに参加してくれた活動者様達へ感謝を伝えることが出来る内容を追加したいと思っていました。そして当日の熱意をこれからOCCに参加する活動者達に感じて貰えるような作品にしようと決めました。
デジタルな世界観、機械的かつ未来的なコンセプトが明確に伝わるよう冒頭はプログラムのエラーコードから始まります。プログラムを仕事にしているIchiに実際のコードを作成してもらい、ディティールの底上げを目指しました。そして物語の舞台である未来の都市発展の影響で空気汚染がある状態のような状態大都市を作成しました。


ビルの中央にメインオブジェクトを配置しないことで、心にぽっかりと空洞を感じているSARAの心情を表現しました。そして警戒、危険を感じる赤の明滅ライティングと不穏な環境音でネガティブな印象を与えることでSARAが不安定な状態であることを表しています。

この世界では野球観戦のようにVSFがメジャー的に盛り上がっている世界観になっていて、VSF参加者達の試合中のコールや掛け声がハイライトされているモニターをSARAが見つけるシーンです。アーカイブをご提供いただけた参加者様達の声が一人一人聞こえるようichiに調整をお願いしました。

優勝チームが決まる瞬間を観たSARAが自分もこの大会に出たいとアンドロイドらしくない感情があふれるシーンです。参加者達やVSFへの憧れを持って欲しいと思いこの構成を考え、この作品を見た視聴者がSARAの心とシンクロ出来るように、そしてOCCに参加してみようと思えるように優勝チームの喜びや実況解説での盛り上がりを意識して演出しました。
POVシーンでは高性能ゴーグルでVSFについて調べている様子で、この行為がきっかけでOCCにSARAの感情が伝わり、招待メールが来るような流れになっています。

憧れと表裏一体である羨望的な自分も出たいという嫉妬心を表現するために、ハイアングルで孤独感や弱さを表し、ダッチアングルの不安定感を感じさせる効果で、目の前の輝かしい舞台、活動者達とSARAの現状の違いを表現しました。

OCCから招待連絡が届くシーンでは、映画で良く使用されているアングルを意識しつつ、機械的なアニメーションで単純にかっこよくを意識して作成しました。UI等はAfterEffectsでアニメーションのフレームに合わせて作成しています。



最後のシーンはグラフィックデザイナーのskkが作成したロゴにアニメーションを追加しました。切り替え部分のロゴ位置を合わせ、ティザー映像でよくあるComing Soonの文字が来る形にして、ここから先はそれぞれの活動者の物語が始まっていくかのような演出にしました。

現状、eスポーツ業界の大規模イベントや大会は、トップ企業のストリーマーや世界規模で活躍する大人気の個人勢が中心となり、非常に高水準の活動者のみが参加できる派閥的な状況になっています。そのため、たとえ大規模なイベントに参加してみたいという夢があっても、それを実現するのは容易ではありません。
この物語の中でSARAが感じたように、この映像を見たすべての活動者様が、そういった機会をなるべく平等に与えられるようにと企画された「ONECOINCUP Invitation to VSF」という新体制に参加したいと感じ、それが行動に繋がることになれば僕はクリエイターとしてとても嬉しいです。
楽しいだけではない、大変な面もあるこの素晴らしい職業を選んだ全ての活動者を、僕は心から応援しています。

